音楽家と政治 [音楽]
トスカです。ようやく最近寒いと感じるようになってきました。今年は暖冬なのかな?
と言うわけで、今回はお約束どおり音楽家(といっても今回話題にするのは作曲家だけですが)と政治について、独断と偏見で書いてみます。
古代においては政(まつりごと)と楽の関わりは密接であったと考えられます。ほら、宮内庁に雅楽を演奏する人たちがいるでしょう。孔子は音楽について次のように残しています。
二番目のは耳に痛いです。まあこんな風に、孔子は音楽を重要なものと考えていたようです。
日本の平安時代における音楽の位置づけは「陰陽師」を読めば雰囲気がわかるんじゃないかな。もちろん作り話(といっても、古典が元ネタなのですが)なので、面白おかしく書いてあります。
原作の小説もあるし映画化もされたのですが、漫画をおすすめします。今時の漫画家はここまで物知りじゃないと売れないのか?というのが私の感想です。
さて、突然時代が変わったりするのですが、ヨーロッパの作曲家も当然政治に翻弄されます。ナポレオン以前は貴族のお抱え音楽家は一種の特権階級でしたので、当然貴族に迎合した音楽をたくさん作り、演奏されました。モーツァルトが「フィガロの結婚」をオペラの題材として取り上げるとかヒヤヒヤものです。ロマン派ではなんといってもショパンのことを思い浮かべてしまいます。ショパンは旅行先のパリで祖国ポーランドの滅亡を知り、亡命作曲家となりました。手紙には「私が一つ作曲する手間でロシア兵を殺すことができたなら!」と危ないことも書いていますが、もちろんそんなことは公には言ったりしません。しかし、シューマンによる批評で、ショパンの音楽が「花びらの裏に大砲を隠している」などと書かれて大変困ったことでしょう。その後共産主義勢力が立ち上がるとともに亡命する作曲家がたくさん現れました。プロコフィエフ、ラフマニノフ、ストラビンスキー、バルトーク・・・音楽家だけではなく、多くの芸術家が逃げ出しました。
その中で逃げ遅れた作曲家がいます。ショスタコービッチです。彼はロシア革命のときにまだ若すぎたのです。交響曲第一番は注目されたのですが、その後があまりよくありませんでした。そして交響曲第四番はソ連のアカデミーに「ヨーロッパ的退廃主義」と評価され、演奏される機会を失いました。そして交響曲第五番「革命」は彼に与えられたラストチャンスでした。
この交響曲、終楽章がちょっと妙だと思いませんか?再現部が妙に短いですよね。コーダといってもよいぐらいです。しかも盛り上げ方に無理やり感がただよいます。実は、最初ショスタコービッチは中間部の沈んだ調子のままで曲を終わらせていたのですが、これがアカデミーの逆鱗に触れてしまったのです。共産主義の音楽は最終的に勝利を獲得しなくてはならないと。書き直しを言い渡されます。つまり、書き直しか粛清か。驚くかもしれませんがスターリン時代のソ連というのはそれぐらい厳しかったのです。スターリン就任後二年間で粛清した人が2000万人とも言われております。しかし、驚いたことにショスタコービッチはいい年をして真剣に悩んでしまいました。作曲家としての己を貫くか、迎合して余生を送るか。純だよ、ショスタコービッチ。でもどう考えても命を捨てるわけにはいきません。ということで、最後にくっつけた部分が再現部っぽいところです。私はあの部分を聴くと、いつも無理やり歩かされている人の行進曲ではないかと考えてしまいます。
まあ、そんなこともあったのですが、その後は吹っ切れたように共産主義体制に迎合した音楽をバンバン作り、地位と名声を獲得していきました。その後スターリンが死んだことにより自由な作曲家活動を取り戻し、交響曲も15番まで作りました。私はショスタコービッチの曲が交響曲第五番で終わらずによかったと、その後の曲たちを聴いて素直に思います。
というわけで、音楽家というか芸術家といえども政治と無縁ではいられない、むしろ音楽家は作家と同じぐらい政治に直結するものがあると思います。私が子供の頃、中国の童謡をいくつか聴く機会があったのですが、どの曲も判で押したように「偉大な指導者、毛主席」なんて歌詞が入っていて、不思議だな~と思いました。今の時代の日本に生まれて本当によかったと思います。
追記
シベリウスのことを書くのを忘れました。「フィンランディア」は反ロシアのテーマミュージックになっていましたね。
と言うわけで、今回はお約束どおり音楽家(といっても今回話題にするのは作曲家だけですが)と政治について、独断と偏見で書いてみます。
古代においては政(まつりごと)と楽の関わりは密接であったと考えられます。ほら、宮内庁に雅楽を演奏する人たちがいるでしょう。孔子は音楽について次のように残しています。
- 子曰く、「詩に興(おこ)り、礼に立ち、楽(がく)に成る」
- 子曰く、「人にして不仁ならば、礼を如何(いかん)。人にして不仁ならば、楽(がく)を如何(いかん)」(心のこもっていない礼儀は無礼だ。心のこもっていない音楽は人の心に響かない。)
二番目のは耳に痛いです。まあこんな風に、孔子は音楽を重要なものと考えていたようです。
日本の平安時代における音楽の位置づけは「陰陽師」を読めば雰囲気がわかるんじゃないかな。もちろん作り話(といっても、古典が元ネタなのですが)なので、面白おかしく書いてあります。
原作の小説もあるし映画化もされたのですが、漫画をおすすめします。今時の漫画家はここまで物知りじゃないと売れないのか?というのが私の感想です。
さて、突然時代が変わったりするのですが、ヨーロッパの作曲家も当然政治に翻弄されます。ナポレオン以前は貴族のお抱え音楽家は一種の特権階級でしたので、当然貴族に迎合した音楽をたくさん作り、演奏されました。モーツァルトが「フィガロの結婚」をオペラの題材として取り上げるとかヒヤヒヤものです。ロマン派ではなんといってもショパンのことを思い浮かべてしまいます。ショパンは旅行先のパリで祖国ポーランドの滅亡を知り、亡命作曲家となりました。手紙には「私が一つ作曲する手間でロシア兵を殺すことができたなら!」と危ないことも書いていますが、もちろんそんなことは公には言ったりしません。しかし、シューマンによる批評で、ショパンの音楽が「花びらの裏に大砲を隠している」などと書かれて大変困ったことでしょう。その後共産主義勢力が立ち上がるとともに亡命する作曲家がたくさん現れました。プロコフィエフ、ラフマニノフ、ストラビンスキー、バルトーク・・・音楽家だけではなく、多くの芸術家が逃げ出しました。
その中で逃げ遅れた作曲家がいます。ショスタコービッチです。彼はロシア革命のときにまだ若すぎたのです。交響曲第一番は注目されたのですが、その後があまりよくありませんでした。そして交響曲第四番はソ連のアカデミーに「ヨーロッパ的退廃主義」と評価され、演奏される機会を失いました。そして交響曲第五番「革命」は彼に与えられたラストチャンスでした。
この交響曲、終楽章がちょっと妙だと思いませんか?再現部が妙に短いですよね。コーダといってもよいぐらいです。しかも盛り上げ方に無理やり感がただよいます。実は、最初ショスタコービッチは中間部の沈んだ調子のままで曲を終わらせていたのですが、これがアカデミーの逆鱗に触れてしまったのです。共産主義の音楽は最終的に勝利を獲得しなくてはならないと。書き直しを言い渡されます。つまり、書き直しか粛清か。驚くかもしれませんがスターリン時代のソ連というのはそれぐらい厳しかったのです。スターリン就任後二年間で粛清した人が2000万人とも言われております。しかし、驚いたことにショスタコービッチはいい年をして真剣に悩んでしまいました。作曲家としての己を貫くか、迎合して余生を送るか。純だよ、ショスタコービッチ。でもどう考えても命を捨てるわけにはいきません。ということで、最後にくっつけた部分が再現部っぽいところです。私はあの部分を聴くと、いつも無理やり歩かされている人の行進曲ではないかと考えてしまいます。
まあ、そんなこともあったのですが、その後は吹っ切れたように共産主義体制に迎合した音楽をバンバン作り、地位と名声を獲得していきました。その後スターリンが死んだことにより自由な作曲家活動を取り戻し、交響曲も15番まで作りました。私はショスタコービッチの曲が交響曲第五番で終わらずによかったと、その後の曲たちを聴いて素直に思います。
というわけで、音楽家というか芸術家といえども政治と無縁ではいられない、むしろ音楽家は作家と同じぐらい政治に直結するものがあると思います。私が子供の頃、中国の童謡をいくつか聴く機会があったのですが、どの曲も判で押したように「偉大な指導者、毛主席」なんて歌詞が入っていて、不思議だな~と思いました。今の時代の日本に生まれて本当によかったと思います。
追記
シベリウスのことを書くのを忘れました。「フィンランディア」は反ロシアのテーマミュージックになっていましたね。
日本はあったかいですよね♡
政治と音楽は切っても切り離せない関係だと最近おもいました。
buon natale!!! e ti auguro di un felice anno nuovo!!
by みど (2008-12-25 08:39)
勉強になります~。
シューマンがショパンを「お花畑に隠れた大砲」と言ったというのは先生がおっしゃっていました。
バレエダンサーも芸j術の自由を求めてたくさん亡命してますね。
映画「ホワイトナイツ」などを思い出しました!
by ピアノフォルテ (2008-12-25 18:32)
みどさん、niceとコメントありがとうございます。
最近どのような体験をなされたのでしょうか。ちょっと興味があります。
みどさんも、来年がよい年でありますように。
by トスカ (2008-12-25 22:13)
ピアノフォルテさん、ご無沙汰しております。niceとコメントありがとうございます。
そうですね。多くの芸術家が亡命していますね。ちなみにシューマンの言葉は「もしそれを専制君主が知っていたならショパンの曲の演奏を許さないだろう」と続いています。はっきり書きすぎだよ>シューマン
by トスカ (2008-12-25 22:17)
あけましておめでとうございます!
この記事に関してゆっくり書きたいのですが・・・もう少し余裕ができてからにします。(忙しすぎて頭が働かないです・・・。涙)
そういえば田月仙(チョン・ウォルソン)さんの「海峡を越えるアリア」という本を読んだことがあり、それでも音楽と政治の関係を考えさせられました。
イギリスの愛国歌なんかも相当荒唐無稽なところがあると思います。
(詳しくは又・・・)
トスカさん、最近お元気そうで何よりです!
by Cecilia (2009-01-03 23:24)
内木優子さんていうピアニストご存知ですか?
by 寛りん (2011-10-05 22:27)